第4回 特別研究事業成果報告会

公開日 令和5年10月14日(土曜)(令和5年3月12日(日曜)講演)

「秦氏と宗像の神―「秦氏本系帳」を手がかりとして―」

 10世紀前半の年中行事書『本朝月令』が引く「秦氏本系帳」には、秦氏が「筑紫胸形坐中部大神」を山背(山城)国の松尾神社(松尾社)に招請・奉安したことが記されている。本報告では、この「秦氏本系帳」を手がかりに、山背を拠点とした渡来系氏族の秦氏が、宗像の神を奉祭するに至った経緯や背景を検討する。秦氏が「筑紫胷形坐・中部大神」を山背へ奉祭したのは推古十六年(608)で、この神は大島の姫神とみられること、またその背景には、ミヤケの経営にかかわった豊前の秦氏の活動や、ミヤケ制を基礎に展開した7世紀初頭前後の北部九州における王権の対外的な軍事活動の影響があったことが明らかとなった。これらには、倭王権の対外交流の拠点となった筑紫において、ミヤケ制とそれを基礎とした王権の軍事活動が、地域の社会関係と信仰の在り方に大きな変化をもたらしていたこと、また大島に対する信仰の、沖ノ島ルートに限定されない古代海上交通上の重要性が示されている。

田中 史生 氏(早稲田大学文学学術院教授)
専門は日本古代史。
主要著作に『日本古代国家の民族支配と渡来人』(校倉書房、1997)、『国際交易の古代列島』(角川選書、2016)、『渡来人と帰化人』(角川選書、2019)。