第1回  特別研究事業成果報告会

公開日 令和5年7月17日(土曜)(令和5年3月12日(日曜)講演)

「航海と海域ネットワークから見た海の世界遺産

 東アジア海域では、漁撈・交易・朝貢・移住・侵略・亡命など、海を越える多様な活動が歴史的に展開した。本海域の海流と潮流、季節による卓越風の風向、台風の来襲、暗礁の位置などの自然要因と、船舶技術要因(船底・水密構造・船材の接合法)が航海の成否を大きく規定した。航海では、天体・生物現象、山や島嶼の位置が航路の目安とされ、大小多種類の船(漁船・家船・遣使船・輸送船・軍船・商船)が用いられた。女神である船霊への土俗的信仰を背景とする航海祭祀は、宗像三女神、住吉神、綿津見神などと結びついた。とりわけ宗像の神がみは国家祭祀に昇華され、沖ノ島での奉献品に結実した。海人の関与した貝類交易では、アワビ(貢納品)やイモガイ・ゴホウラ製貝輪(威信財)などが王権・首長権を支える媒体となった。海を介在する世界遺産では、島嶼間ネットワークを基盤とする広域・分散型の海域モデルが有効である。

秋道 智彌 氏(山梨県立富士山世界遺産センター所長、総合地球環境学研究所名誉教授)
専門は生態人類学、海洋民族学、民族生物学。
主要著作に『交錯する世界 自然と文化の脱構築 - フィリップ・デスコラとの対話』(編著・京都大学学術出版会、2018) 、『明治~昭和前期 漁業権の研究と資料』(全2巻・臨川書店、2021)、『霊峰の文化誌』(勉誠社、2023)